2014年7月25日金曜日

<最高裁>求刑超え判決破棄 裁判員経験者の意見は分かれ

 尊重されるべきは市民感覚か、それとも過去の量刑相場か。裁判員制度スタート当初からの議論に24日、最高裁が一つの答えを出した。「他の事件と比べて出した結論なら仕方がない」「被告にも会わず裁判員の判断を否定するのは納得できない」。求刑の1.5倍という裁判員裁判の判決を「不当」とした最高裁の結論に、裁判員経験者の意見は分かれた。


  昨年、知人女性に対する傷害致死罪などに問われた男の裁判で裁判員を務めた岐阜県可児市のアルバイト男性(65)は「他の事件とのバランスを考慮する裁判官の判断で見直されるのなら、仕方がない」と受け止めた。

 男性が裁判員として加わった判決は、懲役15年の求刑を大きく上回る懲役20年。2審で「量刑は相当性を欠く」として懲役12年に減刑され、最高裁で確定した。「個人的意見として求刑を超える判決に迷いがあったので納得はできた。量刑に対する裁判員の意見にも幅があった。裁判員の判断が上級審で変更されるケースがあってもいいと思う」という。

 「プロの裁判官にとっては数ある裁判の一つでも、裁判員にとっては唯一の裁判」。2011年に東京地裁が強盗殺人罪に問われた男に死刑判決を出した際に裁判員を務めた女性は、2審で無期懲役に減刑された際、「市民感情を反映した判断が否定されたことに反感を覚えた」という。今回の最高裁判決についても「被告にも会わず、裁判記録と今までの事例との比較だけで、裁判員の判決が見直されるのは納得がいかない」と語った。

 判決後に取材に応じた岸本美杏被告の弁護人の間光洋弁護士は「無罪主張が認められなかったことは残念」とした上で「市民感覚が反映されるのが裁判員裁判と理解しているが、量刑の判断に基準がないわけではない。破棄は当然」と述べた。

 一方で、ある検察幹部は「検察の求刑は参考意見として出しており、それが常に正しいとは考えていない。検察としては事案に応じて公平な求刑を目指すだけだ」と語った。

 ◇被告に不利判断、裁判官が1人は賛成する必要

 裁判員裁判の判決は、6人の裁判員と3人の裁判官が評議で話し合って決める。意見が一致しない場合は採決して結論を決める。ただし、有罪と決めるなど被告に不利な判断をする場合は、裁判官が1人は賛成する必要がある。量刑を採決で決める場合は最も重い刑を主張した人から順番に数え、過半数に至った人が主張した刑が結論となるが、この際も裁判官が1人は含まれている必要がある。

 例えば懲役20年に裁判員3人、懲役16年に裁判員2人、懲役15年に裁判官2人、懲役12年に双方が1人ずつ賛成したと仮定する。このケースでは「懲役16年以上」が過半数を占めているが、裁判官が含まれていないため結論には至らず、裁判官の意見の中で最も重い懲役15年が実際の刑となる。今回の1審でも最低1人の裁判官が懲役15年以上の刑に賛成していたことになる。

 ◇十分な情報提供で評議、適切な結論導かれるとの判断

 量刑問題に詳しい元東京高裁部総括判事の原田国男弁護士の話 最高裁は事件の実態に即した妥当な量刑判断を示した。今回の判決は、検察側の求刑を超える量刑判断自体を否定しているわけではなく、裁判官が裁判員に十分な情報を提供して評議を尽くせば、適切な結論は自然に導かれるとの判断を示したものと言えるだろう。

 ◇先例重視に傾きすぎれば制度の趣旨が損なわれる

 裁判員制度の設計に携わった四宮啓・国学院大法科大学院教授の話 公平性を強調するあまり、先例重視に傾きすぎれば制度の趣旨が損なわれる。量刑傾向を知ることは評議の出発点にすぎず、傾向に従うことがゴールになってはならない。裁判官の説明は慎重でなければならず、裁判員の自由な意見表明を促す努力が必要だ。

参照:毎日新聞

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