2014年5月20日火曜日

裁判員制度、あす施行5年

 21日で施行から5年を迎える裁判員制度では、昨年度末までに裁判員、補充裁判員合わせて4万9434人が誕生した。国民から選ばれた裁判員がプロの裁判官とともに審理する裁判員制度によって、司法の現場はどう変わったのか。法曹三者に現状と課題を聞いた。

  □東京地裁部総括判事・稗田雅洋(ひえだ・まさひろ)さん(53)

 ■「多様な視点、自信持って結論出せる」

 選任手続きの後、裁判員の皆さんに必ず説明することがある。それは、自分なりに考える「裁判員制度が導入された趣旨」。「なんで裁判に参加しなきゃいけないの」という疑問を持ったままでは、ストレスにもつながりかねないからだ。

 法律家だけでなく、国民の中から選ばれた人々がいろいろな視点で議論し、結論を出すことによって、より納得のいく裁判ができるのではないか-。そして、「遠慮なく感じたことを述べてください」「他の人の意見をよく聞いてください」とも伝えている。これが、議論を深め、良い結論を出すための出発点だと思う。

 制度によって審理の進め方は大きく変わった。公判前整理手続きが導入され、計画的で集中した審理ができるようになった分、常に「裁判員や国民にとって分かりやすいか」ということを意識するようになった。

 検察官や弁護人の中には、捜査段階の供述にこだわって尋問をする人もいるが、公判は捜査のレビューではない。そのときの被告や証人の記憶に従って生き生きと話をしてもらうことが、裁判員や裁判官にとっても一番判断しやすい。

 裁判は生き物だから、供述調書にはない予想外の話が出る可能性もある。そういう場面で必要なことを聞き、交通整理をするのが職業裁判官の役割だと思う。

 ある傷害致死事件。それまで真面目に暮らしてきた被告と被害者、その家族の思いを考えながら、他方でどういう刑を科せば国民が納得するのか、判決後にどういう言葉をかければ被告や遺族の心に響くのか…。本当に真剣に議論してくださった。

 これまで61被告の裁判員裁判を担当したが、評議でははっとさせられることも多い。法律家特有の発想とは別の多様な視点を検討した結果だからこそ、自信を持って出せる結論が多い。

 □最高検公判部副部・長大谷晃大(こうだい)さん(57)

 ■「捜査段階から分かりやすさ念頭に」

 私が任官した当時、裁判官の隣に一般の人が座っていることはありえないことだった。かつて公判は、プロの裁判官、プロの弁護士といういわば共通言語を持った人たちを相手に行われた。だが、その様相は裁判員制度で一変した。

 検察では、今までの検察権行使の中であまり意識されなかった「分かりやすさ」を重視するようになった。

 たとえば、犯人性が争点となる事件なら間接証拠をどう積み重ねて裁判員に提示するのが分かりやすいか。捜査段階から常に念頭に置くようになった。

 覚醒剤密輸事件などで従前なら有罪だったかもしれない事件が無罪となるケースもみられた。「荷物が覚醒剤だったことを知っていたか」という認識を問う過程は一般の人には縁遠く判断しにくい面もある。裁判官には同種事案の裁判を通じて、培われた経験則があるが一般の人は違う。そうした人にも理解してもらえる立証を行っていく必要があるということだ。

 今後は証人尋問や被告人質問といった個々の検察官の能力をさらに向上させることが課題だ。いい捜査をして、いい証拠を集めても、どう公判で表すのか難しい。証人に何を証言してほしいか、調書を一から十までそのまま機械的になぞるのでは通用しない。

 また、裁判員裁判は迅速さが求められるが、一部事件では公判前整理手続きに時間がかかり、起訴から判決までの期間が長くなっている。法曹三者で考えるべき問題だ。

 制度は5年間で安定し、定着ししつつある。経験者アンケートでは、当初は参加に消極的だったが、終了後は「良かった」という感想が圧倒的に多い。

 制度10年を迎えるときには、国民が身構えて臨むのではなく、当たり前の普通の制度になっていてほしい。

 □日弁連刑事弁護センター委員・小野正典(まさのり)さん(65)

 ■「事件のポイント 整理した主張を」

 「目で見て耳で聞いて判断する裁判」を目指して裁判員制度が導入され、供述調書などの書面を元に判断する従来の裁判から、法廷での証人尋問を重視する方向に大きく変化した。

 ただ、起訴内容に争いのない事件などでは法廷で調書を延々と読み上げる光景が今も見られる。弁護士も書面に頼っている面があり、意識の変革は十分でない。また、裁判の大部分を占める裁判官裁判では書面に依存した旧態依然とした審理が続けられている。

 調書に書かれた言葉は捜査官が作った言葉にすぎないが、法廷で尋問することで本人の生の言葉になる。弁護士からも「被害者が法廷で証言すると調書よりもインパクトが強くなる」と、量刑が重くなることを懸念する声はある。ただ、それこそが実態であり、生の声を聞いて判断してもらうべきなのだと弁護士も頭を切り替える必要がある。

 裁判員経験者のアンケートで「弁護人の説明が分かりにくい」という回答が17%に上った。これまでは一通りの主張をしていれば裁判官が判断してくれたが、それでは裁判員の記憶に残らない。「事件のポイントは何か」を整理して分かりやすく訴えることに尽きる。研修の充実が課題だ。

 裁判員からは「無罪推定」など刑事裁判の原則に忠実に判断しようとする姿勢がうかがわれる。捜査機関への信頼感が強く「有罪推定」ともいえた、これまでの裁判とは大きな違いだ。

 一方、評議は守秘義務が定められているため、検証することができない。模擬裁判などを通じて、議論する必要があるのではないか。5年を振り返り、裁判員の熱心さ、真面目さは予想以上だった。今後は、市民が判断者として加わる裁判員裁判のような仕組みを、少年事件や行政訴訟など他の分野にも広げていくべきだ。

参照:産経新聞

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