2013年10月22日火曜日

裁判員裁判の死刑破棄2件、遺族ら失望 「民意の法廷 なぜ否定」

 東京高裁で今年6月と10月、裁判員裁判が言い渡した1審の死刑判決を破棄し、無期懲役に減刑する判決が言い渡された。2つの判決を下したのは同じ裁判長で、過去の判例を重視するなどして減刑の判断を下した。「民意を取り入れて変わったはずの司法が、市民も加わった判断をなぜ否定するのか」-。遺族らの失望は深い。

 「なぜ刑を軽くするのか…」。平成21年、千葉県松戸市で竪山辰美被告(52)によって殺害された荻野友花里さん=当時(21)、千葉大4年=の父、卓(たかし)さん(64)と母、美奈子さん(60)は、兵庫県稲美町の自宅で苦悶(くもん)の表情を浮かべた。

 竪山被告は友花里さん宅に侵入し、現金やキャッシュカードを奪った後に殺害、翌日に放火した。

 千葉地裁での裁判員裁判には卓さんや美奈子さんも被害者参加。殺害された被害者が1人の場合、過去には死刑にならないケースも少なくないが、判決は「犯行は冷酷で更生可能性は乏しい」として、検察の求刑通り死刑を言い渡した。

 一方、高裁の審理はわずか1回。村瀬均裁判長は今月8日、死刑破棄の判決を言い渡した。死刑回避の条件となる「被告が更生する可能性」には触れず、殺害された被害者が1人という点を重視した。美奈子さんは「被害者や遺族に、とても『冷たい』裁判だと思いました」。

 東京高検は、友花里さんの命日にあたる21日、判決を不服として最高裁に上告した。美奈子さんは「市民が加わった裁判員裁判が出した死刑判決の重みを、最高裁は正しく判断してほしい」と話している。

 「被告は父も含めて3人もの命を奪ったのに、意味がわからない」

 21年11月、南青山のマンションで、金を奪おうとした伊能和夫被告(62)に殺害された五十嵐信次さん=当時(74)=の長男、邦宏さん(47)は悔しそうに話した。

 伊能被告は昭和63年に妻を殺害し、自宅に放火し長女を焼死させたとして殺人罪などに問われ、懲役20年の判決を受けて服役。出所から半年後に、強盗目的で信次さんを殺害した。

 1審東京地裁の裁判員裁判は「冷酷非情な犯行で前科を特に重視すべきだ」として死刑を言い渡した。しかし2審で村瀬裁判長は「前科を重視しすぎだ」として死刑を破棄し、無期懲役を言い渡した。伊能被告も最高裁に上告された。

 犯罪被害者支援弁護士フォーラムの事務局長、高橋正人弁護士は「裁判員裁判が、先例と違う判断をするのは当然。高裁の裁判官が『先例と異なる』として1審判決を破棄するのは、裁判員裁判の制度を否定することになる」としている。
 
参照:産経新聞

0 件のコメント: