2013年3月1日金曜日

「連帯保証人禁止」の本格法制化で中小企業が大打撃を受ける?

親族や知人に頼まれて連帯保証人になったがために多額の借金を負い、生活が破綻。返済に疲れ果てた末、自殺――日本経済が地盤沈下するなかで、このような事故が多発している。

しかし現在、法務省の付属機関である法制審議会では、民法改正に伴い「連帯保証人制度」の大幅な規制が検討されている。その改正法案は2015年以降、国会に提出される見込みだ。

これが実現すれば、銀行や貸金業者が中小企業などに融資する際に求めてきた第三者による個人保証は原則、認められなくなる。

中小零細企業の再生コンサルティングを営む「NEKO-KEN」代表の吉田猫次郎(ねこじろう)氏はこう語る。

「まず知ってほしいのは普通の『保証人』と『連帯保証人』は違うということ。簡単に言うと、保証人は債務者が“完全に”借金を返せないことがわかった場合のみ、肩代わりする義務がある。つまり取り立て順は、債務者→保証人。しかし、連帯保証人は債務者同等の責任を負う義務があるため、債務者本人をすっ飛ばして、取り立てられたり、差し押さえられたりするリスクがあるんです」

中小企業などが貸金業者から融資を受ける際、連帯保証を求められるケースが多い。

「連帯保証制度を採用している国は欧米では皆無で、完全に時代遅れなもの。こういった前時代的な制度と決別できることは、よいことだと思います」(吉田氏)

しかし、こんなデメリットが存在する。「みらい総合法律事務所」の前田真樹(まえだまさき)弁護士はこう言う。

「金融機関が貸し渋りを起こす可能性があります。貸し手からすれば第三者の保証がなくなるわけで、借り手の資力が乏しければ当然、融資はためらわれる。仮に若い起業家が有望なビジネスを展開しようとしても、連帯保証人制度の廃止で融資を受けられず、事業を断念せざるを得ない、ということも起こるでしょう」

影響は貸し渋りだけにとどまらない。専門家は一様に「信用保証協会の存在が大きくなる」と口をそろえる。

信用保証協会とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、個人保証人の“代役”をしてくれる公益法人。以前から、保証人を見つけられない中小企業が利用してきたが、制度改正により駆け込み寺的に利用者が増えると予測されているのだ。

日本とアメリカ・ニューヨーク州の弁護士資格を持ち、企業法務にも詳しい李完植(り・かんしょく)弁護士はため息交じりにこう語る。

「保証協会を利用する場合も簡単ではありません。厳しい審査を通らなければいけないし、信用保証料だって借り手が負担するわけです。当然、その分だけ借金が膨らみます。結局、泣くのは借り手側。今までのように融資は受けられなくなり、起業する人は少なくなる。そうなると『日本は新規ビジネスを立ち上げにくい国、チャレンジしにくい国』という評判が固まってしまいます」

悲惨な事態がなくなるのであれば、制度改正のメリットは確かに大きい。だが、行政は「進んでリスクを負う」人たちにも、配慮する必要があるだろう。

ちなみに、今回の連帯保証制度の禁止対象は貸金に関する契約の一部だ。例えばマンションやアパートなどの賃貸借(ちんたいしゃく)契約、住宅ローン、自動車ローンなどにおいては、今後も連帯責任が認められる。

「アパートなどの賃貸借契約の場合、連帯保証人の責任は家賃の全額支払いだけではありません。仮に借り主が火事を起こし、借り主に支払能力がないと判断されたら、部屋の原状回復(入居前の状態に戻すこと)費用はすべて連帯保証人の負担です。おかしな話ですよね。私は、この分野における連帯保証制度もある程度、規制すべきだと思います」(前出・吉田氏)

くれぐれも、国民の実情に即した改正をしてもらいたいものだ。
 
参照:週プレNEWS

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