2012年12月10日月曜日

急増中!認知症の金持ちを狙う暴力団・悪徳弁護士

■プロにかかると 素人が逃れるのは至難の業だ

 「私の母親が認知症となったとき、どこから聞きつけたのかマルチ商法や新興宗教の人が連日自宅に押しかけてきました」――医師・弁護士らを対象とした危機管理のアドバイスを行う平塚俊樹・武蔵野学院大学客員教授が言う。

 「まだ判断能力が残っているうちに、公証役場に行って任意後見人契約を結び、財産の管理権を私に移しました。法務局に登記されますから、新しいのは来なくなりました。彼らはそういうところを見ています。しつこいのはその後も来ましたが……」

 巨額の資産を持つ独居老人が認知症に……世に徘徊する魑魅魍魎の恰好のターゲットである。物理的な防壁もさることながら、プロの手にかかると法的な防壁もきわめて怪しくなる。

 「悪い奴が独り暮らしの老資産家に接近するときは、娘や息子と同年代で容姿の似た者を毎日訪問させます。老人は話を聞いてもらうのが嬉しくてつい気を許し、家族同然の仲に」(平塚氏)

 ある独居老人が亡くなって、相続の手続きのために親族が集まってみると、いつの間にか自宅に抵当が付いて、暴力団関係者に1億円借りたことになっていた……警察にそんなケースの相談を受けたというある弁護士が言う。

 「その老人はお金は十分持っていたから、借りる理由はないし借りていないという確信はある。でも、亡くなった後だからその証明が難しい」

 警察はその暴力団を捕まえることはできても、抵当権は外せない。共に協力して、暴力団の追及は警察が、民事のほうは弁護士たちが担当したという。

 「相手は準構成員が多いですね。不動産だと司法書士が間に入って面倒だから、最近相談が多いのは借用書で返済を迫ってくるケース。裁判所は筆跡鑑定を判決に加味しないし、いまだに『印鑑の偽造はありえない』などと考えているから、1000万、2000万円を簡単に持っていかれる」(平塚氏)

 前出の弁護士に言わせると、「身柄を取ったもん勝ち」。暴力団が老人の身柄を保護して「家族にDVを受けた」と言わせて裁判を起こし、親族から資産を根こそぎ巻き上げるケースもある。

 「私もそうした相談を3件受けましたが、裁判はすべて劣勢。港区内のマンションを4棟やられた件もあります。法廷では一般人も暴力団員も扱いは変わりませんから……」(平塚氏)

 平塚氏が最近よく相談を受けるのは、何と弁護士が首謀者となるケースとか。繰り返すが、プロが“その気”になれば素人が逃れるのは至難の業。弁護士の窮乏ぶりが顕著な今、彼らの道義心以外に歯止めのない現状は空恐ろしい。

 類似ケースを挙げよう。資産約2億5000万円を持っていた70代後半の女性(当時、Aさんとする)。亡夫との間に子はない。都内で独り暮らしをしていたAさんの代わりに、この案件を担当した若手弁護士が取材に応じた。

 「一度騙されて養子縁組したある男性の使い込みが判明した際、弁護士の夫と別れた50代(当時)女性が『そんな男とは離縁させてあげる』と言ってAさんに接近してきた」

 2004年11月、気分の悪くなったAさんが救急車で搬送され、そのまま入院。「少しボケが入って」(同)一時的に判断能力が落ちた。

 異変は直後から始まった。翌12月、女性とその娘2人の計3名とAさんとの間で養子縁組が成立した。

 「翌年1月には、Aさんと女性との間で任意後見契約が結ばれている」(同)

 5月には、Aさんの自宅取り壊しとマンション建築が決定。名義は女性の長女で、土地に抵当権も付いた。さらに都内の別の土地を3人に贈与。また別個の土地にあったAさんのアパートも同様に贈与……と、わずか1年足らずの間にAさん所有の不動産が次々とこの母娘の手に落ちてしまった。

 「元夫の仲間の弁護士との共謀だったようです。入院中にこれだけやられて、Aさんは帰る家がなくなった。その後2年間で預貯金約8000万円が抜かれ、不動産約1億2000万円と合わせると、約2億円が女性親子の手中に入った計算になります」(同)

 そして07年9月、女性は満を持してAさんの成年後見人に。

 「これでAさんの資産の管理権はすべてこの女性が握った。そのためAさんが自分の財産の状態を調べようと思っても調べられず、取り戻すこともできなくなった。被後見人は後見人相手に裁判などできないから、この件が法廷で追及されることはまずありません」

 任意後見人と違って、成年後見人は定期的に資産の状況を裁判所に報告しなければならない。しかしそれ以前の出来事については、裁判所は我関せず。“完全犯罪”成ったかに見えたが……。

 「Aさんの意識が戻ってきたんです。女性に『通帳はどうなっているのか』などと問い質したが、『大丈夫』と言うばかりで隠したまま。Aさんは不信感を抱いて、病院に自分の姪を探してもらうよう要請した」(同)“Aさんには身寄りがない”と説明するこの母娘を不審がっていた病院の協力も得て、時間はかかったが姪と連絡を取ることに成功、病院も母娘との面会を拒否した。母娘側も負けじと、「病院がAさんを軟禁している」と人身保護請求をかけてきたが、08年10月、Aさん側は裁判所に、財産の横領を理由に後見人解任の申し立てを行った。

 「刑事事件になる話だから解任、場合によっては業務上横領まで問うつもりでしたが、裁判所は『面倒だからイヤ』という物腰。結局、女性が解任を恐れてみずから辞任する形となった」(同)

 Aさん本人が法廷で「もう彼女らとは会いたくない」と訴えたことで人身保護請求は却下された。財産の管理権を取り戻したAさん側は、今度は母娘に対し離縁の訴え。Aさんが亡くなった際、残りの財産を母娘の手に渡さぬためだ。加えて、奪われた不動産の登記移転の請求、Aさんの資産管理会社社長となっていた女性の辞任を求める株主代表訴訟(Aさんが100%株主)の計3つの訴訟を起こしたのだが……。

 「離縁の第1審は敗訴。離縁は、最近は破綻していれば別れられる(破綻主義)離婚とは違って、相手がやらかしたことを立証する必要がある(有責主義)。しかし、養子縁組以降のAさんの記憶は、いうまでもなく曖昧。かすかにどこかの法律事務所に連れていかれた記憶があるだけです。逆に、向こう側はいくらでも証拠を出してくる。贈与の契約書や、名義書き換えの際に司法書士が立ち会ってサインしている写真まで撮ってあった」(同)

 すぐに控訴したものの、結局、「離縁はするが、過去の2億円についてはこれ以上返せとは言わない」という条件で和解することに。母娘がまだ気付いていなかった残り数千万円の資産も、裁判中にAさんが亡くなれば母娘の手に渡る。苦渋の決断だった。

 こうしたケースは、あらかじめ親との間で先の任意後見契約を結ぶことが武器となるが、心理的な抵抗も大きいうえに必ずしも万能ではないという。

 「預貯金8000万円は娘の留学費用。月々200万円近いマンションの家賃収入で、今ごろこの母娘は悠々自適でしょうね」――この弁護士でなくとも、恐怖と怒りを覚えるのは当然だ。

参照:プレジデント

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